目黒区学校給食調理業務民間委託の分析

※目黒区政白書2024からの引用です。目黒区政について様々な角度から分析しています。A4版160ページ、1,200円です。msiromekurome@gmail.comでお申し込みください。

1 目黒区の学校給食調理業務民間委託導入の経過

 目黒区の学校給食調理業務の民間委託は1999年度(平成11年度)に3つの中学校に導入されたのが始まりでした。目黒区職労と学校給食分会は住民とともに8万を越える反対署名を集め、1998年(平成10年)の目黒区長選挙では民間委託反対を掲げる片岡候補が41.55%;20,962票と善戦しました。中学校12校への民間委託導入にあたっては①小学校に拡大する前に検証を行い再協議する、②これまで2校に1名だった栄養士を委託校には全校配置する。③高齢者配食、施設改善、有機野菜等への対応等の検討を始めるというものでした。団体交渉の場で助役から妥結にあたり「委託にあたっては現行の給食の質と教育的意義は低下させない」と表明がありました。

 2002年(平成14年)に全小学校22校への民間委託拡大について提案があり、労使で中学校の民間委託の結果について協議が行われ目黒区職労は①請負契約の関連法規に違反している。②労使関係がなく給食の質が向上しない。③財政優先で質の低下が懸念されることを主張しました。区側は学校長アンケートで問題は報告されていない、年間1億3465万円安上がりになっているなどと主張し、協議は平行線で終わり労使交渉となりました。労使交渉の結果3年後に再協議という条件はつけたものの2003年度(平成15年度)から小学校給食調理業務も民間委託されました。

2 3年間で122件、内容も深刻な事故報告書

 1999年度(平成11年度)に中学校へ調理業務の民間委託が導入されてから23年、全小中学校が民間委託された2009年度(平成21年度)から13年が経過しました。果たして1999年の助役の「現行の質と教育的意義は低下させない」という約束は守られたのでしょうか。答えは否です。

2 3年間で122件、内容も深刻な事故報告書

 1999年度(平成11年度)に中学校へ調理業務の民間委託が導入されてから23年、全小中学校が民間委託された2009年度(平成21年度)から13年が経過しました。果たして1999年の助役の「現行の質と教育的意義は低下させない」という約束は守られたのでしょうか。答えは否です。

 2020年度(令和2年度)から2022年度(令和4年度)までの事故報告書による事故件数と内訳です。3年間で事故は122件に上ります(このほかに業者の責任ではないアレルギー事故が1件あります)。

事故内容      2020年度 2021年度 2022年度 3年合計

異物混入       27件   32件   15件   74件

アレルギー対応ミス   4件          6件          7件        17件

調理ミス                      5件          6件           3件        14件

配食遅れ                      1件          2件           5件          8件

清掃不足                      1件          4件           0件          5件

器物破損                      1件          1件           1件          3件

配食ミス                      1件          0件           0件          1件

合計件数                    40件        51件         31件      122件

※2020年度は7月から給食開始。

異物混入の事例と問題点

2020年度 ビニール片(6件)、毛髪、芋虫(1㎝程度)、ダンゴムシ、コバエ(2件)、小石(径約6㎜)、スライサーの部品、食器の破片(8㎜×4㎜)、クッキングシート、紙(2件)、針金(2件)、木片、金属片、糸くず。

2021年度 ビニール片(4件)、毛髪(4件)、虫(2件)、紙切れ、生きている蟻、ゴキブリの死骸、昆虫の上半分、寄生虫、ひも、ラップ片、スポンジ、プラスチック片(5㎜程度)、タワシの毛、鳥の骨(2件)、鳥の羽、小石(2件)、青虫。

2022年度 ビニール片(4件)、毛髪、金属(2件)、ブラシの毛、スポンジ片、ラップ片、虫、針金(温度計の部品)。

 ビニール片は手袋の破片であることが多く、作業前後の点検を十分していれば防げるはずです。金属片は金ザルの破損によるものが多く、これも使用前後にチェックしていれば防げるはずです。虫の混入は葉物などの下処理で十分洗浄し注意していれば取り除けるものです。これらの事故について直営時代の学校給食のレベル向上に努めてきた元学校給食分会分会長の杉山和子さんは自校直営時代と比較して年間の事故件数が多い、生きた虫や金属片の混入は自校直営時にはほとんど聞いたことがないと言っています。口に入れて固いものが歯にあたったりスープを飲みほした後に異物が発見されたりすることもあり生徒のショックは大きいと思われます。


2021年6月25日茹で野菜に混入していた虫(9㎜、専門機関の検査でカブラハバチの一部と判明。生徒が食事中取り除いているのを担任が見つけ栄養士と校長に報告。

アレルギー除去食対応ミスの事例と問題点(下線はアレルギー源)

2020年度 ポテトグラタン用ポテトを取り出し忘れ牛乳の入ったグラタンソースを投入(残ったものを提供)、豚汁から豆腐を除去せず2名に配膳(生徒が食前に気付いた)、使用予定でない里芋を使用(別作りで対応)、梨を提供(担任と生徒が気付いた)。

2021年度 スープに大麦を入れた(スープの上澄みを使用)、梨を洗った回転釜をそのまま使用した(補充分で再調理)、ハヤシライスにバターを入れた(残りで調理)、白米のみ提供すべきところ高野豆腐入りそぼろ丼を提供(持参食のみに)

2022年度 取り分けたワンタン(小麦)を誤ってスープに入れた(提供できず)、乳製品・魚卵・卵除去なのにししゃものごま焼きを提供(生徒が気が付いた)、ワンタン(小麦)抜きのスープを作るのを忘れた(別調理)、除去食を隣のクラスに配膳(栄養士が気が付く)、つみれ(魚、卵)を取らずに汁を作成(追加発注)、タラを除去せず汁を作成(追加発注)、

アレルギー除去食対応ミスの原因として時間が遅れてあせっていた、声出し確認不足、ルールを守っていない、情報が共有されていない、アレルギー札を乗せていなかった、1人で調理していた、除去食があるのを忘れた、勘違いと確認不足、回転釜を目的外に利用、除去用トレー設置忘れなど多彩ですがルールを守り注意すれば防げるものがほとんどと思われます。喫食前に生徒本人が気が付かなければ重大な事故になってた事例もあります。杉山さんは同一業者が同年度内に複数のアレルギー除去食での事故を起こしていることを問題視しています。具体的には協立食品が2022年度4件、藤江が2020年度3件、2021年度2件、一富士フードサービスが2022年度2件(同一校で3日間に2件)となっています。事故があった場合その事実が現場全員に報告されているのか、問題が共有されているのかと指摘しています。

調理ミスの事例と問題点

2020年度 ワゴンからご飯パットが落下(ワゴンを固定せず)、使用済み油2缶が台車から落下流出(立ち上がりのない台車を使用、ふきとらず勝手に洗浄し流してしまった、報告せず)、リフト内に食缶を落下(台車からはみ出しているのに気づかず)

2021年度 同じ日に同じ学校で1,白ごまを加熱し忘れ、2、麦ごはん1釜配缶忘れ、3,汁に小松菜入れ忘れ(作業工程無視,新人にまかせたなど)、ほっけの切り身が100切れ不足(納品時の数え違い)、2日前に薄力粉を多く使用したため当日不足(発注量と使用料を勘違い)、ピラフにウインナーを入れ忘れ(清掃時冷蔵庫で発見、確認不足)、春巻きの具が不足(計り違い、低中高と分けず)、たけのこを別の料理に使用(味が変わらないのでそのまま提供)

2022年度 わんたんがくっついて調理できず(ほぐしてあると思い込んでいた、再購入)、うどんようの小松菜をサラダに入れた(思い込みで調理)、白玉団子が過熱不十分(大小があったため)

 調理ミスはチーフ、サブチーフの力不足が目立ちます。杉山さんは食材の入れ忘れなどありえない、初歩的なミスが多すぎる、委託会社の社員の定数と技量に問題があるのではと指摘しています。

配食時間の遅れの事例と問題点

2020年度 最終配膳が12時45分になった(準備、段取り、時間配分不足)

2021年度 おにぎり10個不足にぎりなおしで15分遅延(業者当初ミスを認めず)、三色団子のあんが固く分注に時間がかかり10分遅延(固さの確認不足)

2022年度 アレルギー除去食を落下させ全体で15分遅延(ミスが多いパートが担当)、ご飯に芯が残り炊きなおしで遅延(味見せず)、中華ちまきの調理遅れ25分以上遅延(蒸し時間の予測ミス)、じゃがいもを茹ですぎカレーを25分遅れ(会社の指導不足)、味噌汁に豚肉入れ忘れで15分遅配(冷蔵庫で発見、再調理)

 調理ミスが遅配の原因のことが多く注意すれば防げるはず。杉山さんは提供時間の遅れはよほどの大きなトラブルがない限りありえない、作業工程の確認不足か、人手不足か、調理技術の未熟が原因ではないかと指摘しています。

清掃不足の事例と原因

2020年度 配膳時ワゴンの天板を広げたらゴキブリが落下(すきまにひそんでいた?)

2021年度 パン皿に汚れが付着(浸漬時間、こすり洗い不足)、10クラス分のボールが濡れていた(伏せて保管、確認不足)、スプーンに汚れ(人員不足の可能性)、トレーの汚れ(終了が早すぎると思った)

器物破損の事例と問題点

2020年度 切菜機の刃を破損(ガイド取り付けミス)

2021年度 食器洗浄機を清掃時に破損(マニュアルに反し動かしながら高圧洗浄機を使用)、スライサーの刃がかけ、ニンジンに混入(使用方法の誤り、件数は異物混入にカウント)

2022年度 回転釜を空焚きし内釜を交換(人手不足、同社は2003年にも他校で同じ事故、伝わっていない)

 マニュアル通りにやってない、人員不足が主な原因と思われます。回転釜の空焚きは同じ業者が過去にも同じ事故を起こしていますが現在の担当者は知らず会社の中で継承されていませんでした。

3 委託業者の「評価」と選定のカラクリ

どんな業者でも「良好」以上に

学校給食調理業務委託業者の評価は毎年各学校ごとに①学校からの評価点、②学校運営課の評価点、③業務改善提案加点をもとに④課長の評定係数をかけた数値で評価します。実は①から④まで全部非開示で私たちは知ることが出来ません。わかるのは最後の優良(80点以上)とか良好(70点以上80点未満)、標準(60点以上70点未満)、要改善(50点以上60点未満)、不適切(50点未満)という最終判定だけです。最終判定の優良を85点、良好を75点、標準を65点として各委託業者の平均得点を出したものです(3年間で要改善、不適切はありませんでした)。平均点の右に業者ごとの1年間の事故件数を表示しています。協立給食(株)は2020年度15件(全体40件の37.5%)、2021年度18件(同51件の35.3%)、2022年度10件(同31件の32.2%)と毎年ダントツのワースト1位です。特に協立給食(株)が請け負っている中目黒小学校の事故件数は2020年度8件、2021年度9件、2022年度途中で業者が変わるまで5件と多く、事故内容も針金の混入、アレルギー除去食ミス、配食遅れ、配缶ミス、油流出、食材入れ忘れなど深刻なものが多くなっています。学校の意見として「事故後も改まらない。従業員が適正配置されていないのでは。」「協力を得られない。」「点検指導しても改善されない会社に委託契約を継続することに大きな不安がある。」と悲痛な叫びとなっています。学校が優良とか良好と評価したとは思えません。しかし2020年度、2021年度とも中目黒小学校の給食調理の評価は「良好」であり「標準」ですらありません(2022年度は途中で業者が協立給食(株)の評価は無し)。協立給食(株)全体の評価も3年間にわたって9業者中3位から5位と悪くありません。なぜこうなるのでしょうか。配点や係数が明らかとなっていない以上私たちにはわかりません。生徒の命に係わる問題なのに評価の中身を住民や関係者は何も知ることはできません。知る必要はない、全部行政に任せろという目黒区教育委員会や目黒区当局の姿勢は極めて時代錯誤的です。

「プロポーザル方式」という抜け道

学校給食調理業務の委託業者はどのように決まるのでしょうか。優良と良好と判定されると5年間随意契約となり5年間自動更新です。評価が標準だと随意契約は3年間になります。要改善だと随意契約はなし、競争入札となります。不適切と判定されると契約はできません。1999年(平成11年)から始まった学校給食調理業務の民間委託ですが5年未満で業者が変わった例は学校統廃合を除くと東山小を最初1年請け負った例以外にありません。つまりほぼ100%が5年の随意契約だったということです。5年目になるとどのように次の業者が決まるのでしょうか。選定は「学校給食業務委託業者選定委員会」が行います。メンバーは教育次長、小中学校長2名、小中学校栄養職員2名、学校運営課長、それ以外の教育委員会の課長の7名です。つまり教育委員会の内部だけで保護者や住民代表は入っていません。ここで不思議なことがあります。随意契約というのは競争によらず契約するわけで特別な技術があるとか他の会社にはない優位点がある場合とか緊急の場合に限られます。給食調理業務が随意契約の条件に該当するとは思えません。目黒区の場合その抜け道として「業務改善提案型契約方式」いわゆるプロポーザル方式を取ることで随意契約の言い訳としています。プロポーザル方式とは例えばいま議論になっている目黒区民センターの見直しにあたってどのような施設にするのか複数の会社から提案を受けて一番すぐれている会社と契約するような場合です。こうすれば金額が少々高くても内容が優れていると評価して随意契約することが出来ます(実際に目黒区民センター見直しの契約は4社の中から一番金額の高い業者に決まりました)。そもそも学校給食調理業務の民間委託が業務改善提案型契約に該当するとは思えません。それでもプロポーザル方式の範囲や方法を定めている「目黒区業務改善提案型契約方式実施要領」では対象業務に給食調理業務を明示し原則3年が限度の契約期間を給食調理業務は5年限度と特例を設けています。まるで給食調理業務の5年間随意契約を実現するための要綱という内容になっています。この点について2004年度(平成16年度)の目黒区外部検査では学校給食調理業務民間委託を監査して「随意契約できる場合は基本的に限定されており、随意契約を適用するには、特定の業者に偏る等不公正な契約行為になる可能性がある。」と指摘しています。

どんなずさんな運営で事故も多発してもほぼ自動契約となると良心的な業者が生き残れないのではないでしょうか。目黒の調理の委託に参入しその後やめた業者が5社あります。グリーンハウス(2009年度~2013年度)、CTMサプライ(2009~2017年度)、東京フードサービス(2013~2015年度)、メフォス(2013~2022年度)、メリックス(2009~2013年度)です。だいぶ前に撤退した業者は資料がありませんがメフォスは2020年度~2022年度の資料があります。事故報告は2020年度0件、2021年度3件、2022年度0件の合計3件で9業者中最小です(最多は協立給食の3年間で43件)。2023年度から葉隠勇進(事故報告は3年間で19件と2番目に多い)に変わりました。悪貨が良貨を駆逐しているのではないでしょうか。

※業務改善型契約方式とプロポーザル方式のちがいがわからなかったのですが確認したところ4年目までが業務改善型契約方式つまり競争相手がいない随意契約で5年目に業者間の競争となるのがプロポーザル方式だそうです。5年目でも競争相手が現われない場合もあり事実上ずっと問題の随意契約となる場合もあります。

4 学校給食調理業務民間委託を分析しての結論

〇子どもの最善の利益を第一に

 国連の「子どもの権利条約」(1994年に日本も批准)の原則の一つに子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)というのがあります。子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えるという原則です。安上がりだからということで決めてはいけないのです。

〇民間委託の問題点と根本原因

 異物混入やアレルギー食のミスと言った子どもの命にかかわる事故の多発、向上しない調理技術、慢性的な人員不足、指示に従わない人々、全部が全部そうではありませんがやはり委託にともなって起きるであろうと指摘した問題は現実に起きています。直営の時は調理師研究会が仕事として位置付けられ調理技術を磨いていました。労働組合(目黒区職労と学校給食分会)の要求でドライシステムをはじめとして衛生、安全面について年々向上していました。調理師研究会と学校給食分会が車の両輪となって安全でおいしい目黒区の給食を作り上げたてきたのです。その成果は子どもたち、保護者、区民のものでした。それが安上がりという理由だけで失われてしまいました。

〇直営校の一部復活を

 事故も起こさず誠実に調理業務と向き合ってきた委託業者もいます。しかしどんな問題があっても「良好」と判定され5年間あるいはその後も仕事が確保される現在の仕組みでは誠実な業者はやっていけなくなるでしょう。また委託の仕組みでは職場環境の改善はできません。労働組合がない中で待遇の改善もできません。人間らしく生き甲斐をもって働くためには直営の復活は不可避です。ただちに全校直営に戻すのは無理としても直営の拠点校を設け施設設備や調理技術の新たな目黒基準を作るべきです。委託が完了してから14年。今なら直営時代を知る調理師や栄養士がいます。子どもたちの命と健康を守るために今こそ直営を復活すべきです。

〇災害対策に調理業務の直営は不可欠

 地震、大雨など災害時の食料確保に学校給食が大いに役立つことは文部科学省が2021年3月にまとめた「災害時における学校給食実施体制の構築に関する事例集」災害時における学校給食実施体制の構築に関する事例集 (mext.go.jp)で明らかです。給食室の回転釜などの大型設備は経験者でないと使えません。災害に備えたマニュアルの作成や関係者との協議も正規職員だからできます。文部科学省の事例で取り上げられた11の自治体のうち7自治体は調理業務の一部か大半を直営で行っています。(宮城県:単独調理場23カ所のうち9カ所が直営、今治市:単独調理場10カ所全部直営、倉敷市:単独調理場56カ所全部直営、高知市:単独調理場37カ所中23カ所直営など)首都圏直下型地震が近いと言われている今、直営の拠点校づくりは区民の命を守ることに直結します。

しろめくろめ

しろめくろめの会(明るく住みよい目黒を考える会の略称)の世話人の一人が運営するホームページです。目黒区政に係る情報を発信しています。

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