目黒区民センター見直し 最悪のコンサル会社がまとめた「基本構想」
しろめくろめの会 高村重明
※目黒区民センターの建て替えが区民の意見を無視して民間施設(おそらくマンション)優先で進められています。その出発点であったコンサルタント会社選定について2020年3月に発行した「目黒区政白書2020」で問題点を明らかにしました。選定されたコンサルタント会社がまとめた「基本構想」が多くの区民、利用者の怒りを買っています。なぜそうなったのか目黒区政白書2020の文書に一部加筆し、みなさんにお伝えしようと思います。
目黒区民センターの見直しが「リーディングプロジェクト」
目黒区民センターが2016年で築42年を迎え(美術館は築30年)建て替えか改築か検討が求められています。目黒区区有施設見直し有識者会議(委員長、根本裕二東洋大学教授)が2013年にまとめた「区有施設見直しに関する意見書」(以下意見書)で目黒区民センターを含む区有施設見直し実現のための8つの手法として以下をかかげています。(1)受益者負担の適正化。(2)長寿命化。(3)既存施設における公民連携の推進(民間活力の活用)。(4)統廃合・多機能化。(5)未利用地等の活用。(6)広域連携。(7)地域移管。(8)民間施設活用です。(3)の民間活力の活用がえてして住民の財産である公共施設が民間資本の利益の投資先となってしまうのではないかと危惧されました。
目黒区民センターの見直しは区有施設見直しのリーディングプロジェクトと位置付けられていることからこの見直しが住民本位に行われるのか民間資本主導で行われるのか注目する必要がありました。
※ちなみに区有施設見直し有識者会議の議事録を目黒区役所のホームページで閲覧すると委員長の根本氏の発言の多さと行政の不十分さの叱責、全体を急がせたり誘導したりする発言が目に付きます。会議は毎回多くの区民が傍聴しましたがその1人はパブリックコメントで「部課長はメモを取るのみで意見、反論なし」と指摘しています。
※根本氏は肩書は大学教授ですがPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ=官民連携)やPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ=公共施設への民間資本、技術等の導入)研究のプロであり、政府や民間資本の推進組織の一員です。根本氏を有識者会議の委員長とした時点で区有施設見直しの方向は決められたと言ってもいいと思います。
提案内容と見積もりが選定の85%を占める
目黒区は目黒区民センターの見直しにあたりプロポーザル方式(企画書の比較検討により委託先を決める方法)で委託先を決めることとしました。その結果応募した4社の中からPwCアドバイザリー合同会社に決まりました。
1次審査では提案の独創性、実現性等と経費(参考見積)が全体の85%以上を占めています。当然その内容が気になります。
ちなみに2次審査の項目は「専門能力・経験の確認(105点)」「業務への取組意欲(140点)「コミュニケーション能力(175点)」と主観的にどうとでも評価できるものであり、業者選定は1次審査の「提案の独創性、実現性等」と「経費(参考見積)」にかかっていると思われます。
「課題整理に対する提案」がこれからの見直しを決定
目黒区民センター見直し業務委託プロポーザル募集要項の提出書類は次のようになっていました。
ア 企画提案書
① 業務実施体制
② 配置予定技術者(管理技術者)の経歴
③ 配置予定技術者(担当技術者)の経歴
④ 業務実施方針・業務フロー
⑤ 目黒区民センターの課題整理に対する提案
⑥ 行程計画
イ 参考見積・内訳書
ウ 直近10年以内の実績一覧
このうち⑤の目黒区民センターの課題整理に対する提案についてはさらに詳しい注釈がついていました。
○目黒区民センターの改築か改修化を判断するための方法・考え方と手順
○既存施設(周辺施設含む)の複合化・多機能化の可能性及び課題
○土地の高度利用を検討する際の条件・制約等に対する考え方
○当該用地の民間活力活用の可能性及び課題
○目黒区民センターの見直しと周辺まちづくりの関連に関する考え方
こうみると⑤の内容がこれからの目黒区民センター見直しをどう進めるかにとって決定的であることが分かります。ある意味で4社の中から特定の会社に決定した時点で目黒区の区民センター見直し方針は決定したと言っても過言ではないと思います。なぜPwCアドバイザリー合同会社に決まったのか、他の会社の提案とどう違っていたのか、この問題を分析、検討するには必須の情報です。
情報開示の期限を60日間も延期
私は提出書類のうち⑤目黒区民センターの課題整理に対する提案とイ参考見積・内訳書、ウ直近10年以内の実績一覧に絞って開示請求することにしました。それが2019年1月23日(水)のことです。目黒区情報公開条例では「開示請求があった日から起算して15日以内に(開示)しなければならない。」(第13条)とあるので遅くとも2月8日(金)には開示されるものと思っていました。その後1月29日(火)区有施設プロジェクト課の担当者より「ボリュームがあるので15日以上かかってしまうかもしれない」という電話がありました。以前22ある住区住民会議の全部の決算報告書を開示請求した時も15日間ではできなかったことがあるのでやむをえないのかと思いました。しかし2月2日(土)に到着した2月1日(金)付の青木区長からの書類は「開示等決定延期通知書」となっていて当初2月7日(木)だった決定期限を3月25日(月)まで延期するというのです。延期の理由は「開示請求のあった行政情報は、第三者等に関する情報が含まれることから、当該行政情報の開示等の決定に先立ち、目黒区情報公開条例第15条第1項の規定に基づき、当該情報に係る第三者等に意見書を求めることとしたため。」とありました。しかし封筒の中には情報公開条例の該当部分の写しも入っておらずネットで検索しなければ条文を知り得ないという不親切さでした。
まず開示請求に対する開示等の決定の延期は第15条ではなくて第13条第2項に次のように規定されています。「実施機関は、やむを得ない理由により、前項に規定する期間内(15日以内)に決定をすることができないときは、当該開示請求があった日から60日を限度としてその期間を延長することができる。」延期された決定期限の3月25日は私の開示請求の収受日(1月24日)の翌日から数えて60日目でありめいっぱい延長したことになります。
知る権利を阻む「第三者」条項の乱用
問題は延期の理由です。目黒区情報公開条例第15条は「第三者保護に関する手続き」という題で「開示請求に係る行政情報に区及び開示請求者以外のもの(以下「第三者」という。)に関する情報が記録されているときは、当該行政情報の開示等の決定に先立ち、当該情報に係る第三者に対し、…意見書を提出する機会を与えなければならない。」とあるのです。具体的には第7条で行政情報開示義務の例外として「法人その他の団体(以下「法人等」という。)又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人に明らかに不利益を与えると認められるもの。」とあり、法人も第三者であり開示することによって「明らかに不利益を与える」と行政が判断したので開示を延期したと思われます。
私は2018年、江戸川区に対してある事業の委託契約書及び関係書類の情報開示請求を行ったところ全文が期限内に開示されました。委託契約書には契約金額、受託業者の住所、名称、代表者氏名等が記載されていました。関係書類である委託仕様書には人件費、燃料費、事務費等の算定に係る詳細な月別内訳も記載されていました。江戸川区の情報公開条例も目黒区とほぼ同じで当然第三者条項もありましたが江戸川区はこれを適用することはありませんでした。
見積もりが一番高い会社が落札
結局3月25日の延長期限ぎりぎりになってほとんど非公開だが一部公開するという回答があり、930円のコピー代と250円の切手代を郵送しました。開示されたのは4社の企業が開示を認めた部分のみでほとんどが黒塗りでした(添付資料参照)。全部黒塗りのページは無駄ということでコピーもされていませんでした。
ただし見積価格は開示されました。
ア社 19,429,200円
イ社 19,513,440円(PwCアドバイザリー合同会社)
ウ社 19,440,000円
エ社 19,386,000円
イ社が落札したPwCアドバイザリー合同会社です。なんと見積もりが一番高い会社に落札されたのです。経費で決めたのではないとするとますます提案内容が重要ですがその部分はまったく開示されず、目黒区民センター見直しに係るプロポーザルの決定過程は全くのブラックボックスとなってしまいました。
※入札した4社の金額があまりにも近いのも驚きです。最高額のイ社と最低額のエ社との差はたったの127,440円、受注した額の0.65%にすぎません。これでは談合があったと疑われても仕方がありません。
開示を前提とした入札を
4社による入札の結果は目黒区のホームページに掲載されました。(1,540点満点)
1位 959.0点 PwCアドバイザリー合同会社
2位 900.6点
3位 832.6点
4位 799.4点
しかしこの採点の対象となった入札に関する情報が開示されなければこの点数表は意味がないことは誰にでもわかります。ではどうすればいいのでしょうか。
目黒区情報公開条例は条例第1条で「この条例は、区民の行政情報の開示を求める権利を保障するとともに、…目黒区が区政について区民に説明する責任を全うし、公正で開かれた区政を推進し、区民の区政への参加の促進を図り、もって区民と区との協働によるまちづくりに資することを目的とする」という崇高な理念を掲げています。また第4条の2で「実施機関は、行政情報を開示することを原則として、この条例を解釈し、運用するものとする。」ともあります。今回の区の対応は第1条にも第4条の2にも反することは明らかです。
よって私は入札結果などの検証に必要な企業の情報については第三者情報とせず開示すべきと考えます。それは目黒区情報公開条例の第9条(公益上の理由による裁量的開示)で可能と考えます。第9条は「実施機関は、開示請求に係る行政情報に不開示情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該行政情報を開示することができる。」とあります。入札を区民がチェックすることは公正な行政を維持するという目的のためでありまさに公益です。入札業者には入札に際し行政に提出した情報は開示対象であることを事前に告知し了解した企業が入札すればよいのです。
番外編 区民の目線で4社を評価してみると
部分開示された入札資料の読み取れる範囲で私の独断で4社を評価してみました。
【開示率】
各会社が開示しては困ると黒塗りした部分を除き開示された面積を比較してみました。住民が開示請求をしてきたのを知って黒塗りしたわけですからその会社の民主化度と言ってもいいかもしれません。
ア社 37ページ中20ページは全部黒塗りで区の担当者はコピーすらしませんでした。一部記入のあるページも8ページは見出しのみです。つまり提案部分は100%黒塗りで話になりません。見積もりは25%が黒塗り。業務実績も100%黒塗りです。まさに「ブラック企業」で37ページ中開示は0.5ページなので開示率0.5÷37=1.4%。100点満点の1点です。
イ社 提案部分は16ページ中真っ黒が4ページ。半分程度黒塗りは6ページ。一部黒塗りは3ページ。全部開示は4ページです。見積もりは単価部分が黒塗りで50%。実績は名称のみでほぼ黒塗り。32ページ中開示は9.5ページなので9.5÷32=29%。100点満点の29点です。
ウ社 提案部分は12ページですが全部黒のページはなく、半分黒塗りが1ページ、4分の1程度が5ページ、あとは全部開示です。見積もりは明細も含めて全部開示です。実績部分9ページは事業名や内容、特徴まで全部開示です。24ページ中22ページが開示なので開示率は22÷24=92%。100点満点の92点と高得点です。
エ社 提案部分16ページ中半分黒塗りが2ページ、4分の1程度が9ページ。5ページは全部開示です。見積もりは内訳が黒塗りです。実績は業務概要が黒塗りです。全20ページ中開示は10.5ページなので開示率は10.5÷20=52%。100点満点の52点です。
【住民参加】
区民センター見直しの進め方で欠かせないのが住民参加ですが4社の考え方を評価してみます。
ア社 提案部分は全部黒塗りなので評価できず。100点満点の0点です。
イ社 提案の7として「住民参加、住民意見反映の手法」という項目に1ページをさいています。しかし「住民関与に関する基本的な考え方」として「住民・利用者を巻き込むことで、区民全体の関心を高め、事業の推進力とすることは非常に有効な手法と考えます。」という表現にあるように住民を利用しようという考え方が見え見えです。また「特定ユーザーや利害関係者の意見だけが強く反映されたり、意見集約に長い期間を要してしまう恐れもあります。」と住民敵視、関係住民排除の姿勢があらわです。結局具体的な住民参加の手法はパブリックコメントやアンケート、ワークショップでの意見交換といった非常に限定されたものしか想定していません。この会社は住民参加を敵視しているので100点満点で0点です。(マイナスかも知れませんが)
ウ社 提案のひとつに「住民参加・住民意見反映の方法」というページがあります。平成30年度は既存の「目黒駅周辺地区街づくり懇談会」の活動を把握することにとどめ翌年以降ワークショップや説明会、パブリックコメントなどを行うとしています。イ社とにていますが住民敵視の姿勢は見えないので10点満点の20点とします。
エ社 提案のテーマ7として「住民参加、住民意見反映の手法」という項目に2ページをさいています。住民参加等の主な手法として7種類をあげています。①まちづくり検討会(有識者、団体代表、部会代表、地区住民代表、行政)②住民ワークショップ③入居団体ヒヤリング④区民アンケート⑤利用者アンケート⑥まちづくり講演会⑦情報かわら版⑧パブリックコメント⑨意見箱、と具体的です。住民参加全体の進め方として情報発信の方法やプロセスの透明性の確保など具体的に提案しています。実効性はわかりませんが他社に比べ住民参加への姿勢が前向きなので100点満点の50点とします。
【高さ規制への対応】
民間活力の活用などの部分は難しくてわからないので目黒区の特徴である高さ規制への対応を見てみます。
ア社 全部黒塗りなので0点。
イ社 土地の高度利用について3ページにわたって記載されていますが半分以上黒塗りです。開示された部分を見ると「本事業敷地の高い資産性を活かし、民間用途に余剰容積を最大限確保する」「定期借地権を組み合わせ庁舎整備を実施した豊島区・渋谷区の事例を調査」するなど高さ規制を緩和させようという姿勢がありありです。他のところで「遅くとも33年度の事業者公募前に本事業で適用できる高度利用の制度(例えば地区計画の作成や都市計画の見直し等)を準備しておく必要があります。」とまで言い切っています。景観や周辺との調和よりも企業の利益優先の姿勢が見えます。ある程度は企業のもうけも必要ではあるので10点とします。
ウ社 高度利用についての考え方のところで「貴区はこれまで街並みの保全及び生活環境の確保を目的として都市計画行政を一貫して推進されており、対象地周辺地区においても高度地区絶対高さ制限を設定しているなど、特別区においてもまちづくりに特に配慮してきた自治体と理解しております。」と正しく評価しています。そして「この都市計画理念は、対象地を含む大半の土地においては今後も継続していく事が必要と認識しており、本業務においてもその前提で検討を行うことを大前提とすべきと考えています。」としています。ただし、対象地域が第2種住居地域であることは変更の可能性もありうるとしています。高さ制限も「原則現行のまま検討を行う」としています。一応現時点での考え方を評価して100点満点の80点とします。
エ社 高度利用の検討の部分では高さ規制などには全く触れず「民間施設の収益性も考慮した施設計画とします。」とあるように利益優先の姿勢が見えるのでイ社と同じ10点とします。
【総合評価】
以上の3つのポイントで評価すると次のとおりになります。
会社名 開示率(民主化度) 住民参加 高さ規制 合計
ア社 1点 0点 0点 1点
イ社 29点 0点 10点 39点
ウ社 92点 20点 60点 192点
エ社 52点 50点 10点 112点
ウ社が1位、エ社が次点でした。さて実際に落札したPwCアドバイザリー合同会社はどれかというと、イ社です。PwCアドバイザリー合同会社は情報の開示はしない、住民参加は敵視する、高さ規制より企業優先の高度利用というかなり問題のある会社です。そのPwCアドバイザリー合同会社がなぜ選ばれたのか、それは目黒区がこれからすすめる区有施設の建て替え方針に一番近いからです。2018年から2023年まで6年、8億円のコンサル料を受け取ったPwCアドバイザリー合同会社がまとめた「新たな目黒区民センター基本計画(素案)」は予想どおり民間収益施設(おそらくマンション)中心のプロジェクトに区が協力し、区民施設が縮小する計画となっていました。形式的なパブリックコメントやワークショップは行われましたが参加者の意見は完全に無視されました。目黒区は800億円の積立金がある裕福な自治体です。区民や利用者の意見をよく聞いて使いやすくエコな施設を自力で作ることは十分可能です。コンサルタント会社もほとんどすべての情報を開示し20mの高さ規制を評価するエ社や住民や利用者と一緒に計画を進める具体案を幾つも提案したエ社のようにまともな会社もあるのです。いったん立ち止まって区民、利用者と考え直すべきだと思います。
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