江東区長選挙の結果をどう見るか
2023年4月23日と12月10日の再選挙が行われた江東区長選挙の私的分析です。
2023年12月20日作成
1、1回目(2023年4月23日)の江東区長選挙の結果
木村弥生【当選】 75,906票 元衆議院議員、57歳
山崎一輝(自民) 62,148票 元都議、50歳
猪野 隆 34,126票 元国税庁職員、58歳
戸沢玲子(共産、社民)25,167票 ヘルパー、60歳
2023年1月12日元衆議院議員(京都3区)の木村弥生氏が江東区長選挙に立候補を表明した。背景に柿沢未途自民党衆議院議員がいた。柿沢未途氏は東京15区(江東区)で自民党候補と争ってきたが2021年の総選挙で勝てば自民党入りを宣言し、自民都連が推薦した候補を破って自民党の追加公認を受けた。山崎孝明区長は柿沢氏の自民党入りに反対して対立。現職の山崎孝明区長が4月12日に死去。同日長男の山崎一輝氏(都議)が自民区議全員の推薦で立候補した。選挙は予定通り4月23日の同日選挙で行われた。
なぜ柿沢未途氏は江東区長選挙に介入したのか。背景に2021年7月4日の都議会議員選挙があるのではないか。
細田いさむ 【当選】(公明) 31,864票
山崎一輝 【当選】(自民) 31,812票
あぜ上三和子【当選】(共産) 29,136票
白戸太朗 【当選】(都民ファースト) 27,650票
高橋めぐみ [次点](自民) 24,215票
高野はやと (立憲) 19,137票
しみず良平 (維新) 12,417票
藤川ひろあき (テレビ改革党) 3,342票
自民党は2人立てたが山崎区長の長男一輝氏は2位で当選し、高橋めぐみ氏も現職だったが次点で落選している。実は高橋めぐみ氏は区長選挙に立候補した木村弥生氏の妹である。二人の父は江東区を地盤としていた自民党の衆議院議員木村勉氏である。柿沢未途氏の父柿沢弘治衆議院議員(新自由クラブ→自民)も江東区を地盤としていた。高橋めぐみ氏の落選を機に同じ江東区を地盤として自民党入りを狙っていた柿沢未途氏が都議選の結果に不満を持っていた木村勉氏に近づき反山崎派の区長候補として娘の木村弥生氏を擁立したのではないだろうか。木村弥生氏の区長選挙に高齢の木村勉氏が応援演説をしている。
4月の区長選挙で実質自民である木村弥生氏と自民推薦の山崎一輝氏の合計得票は138,054票と都議選の自民票56,027票の倍以上となった。自主投票の公明票を入れても87,891票でまだ50,163票も上乗せしている。共産、社民推薦の芹沢礼子氏は共産票をほとんど取り入れているので中間票をかなり上乗せしていることになる。地元で著名な木村勉氏、柿沢弘治氏の支持票も入ったのではないか。(公明党は木村弥生区長の提案した全議案賛成している。自民党はいくつかの議案に反対している。)
結果として木村弥生氏は当選したが有料インターネット広告の発覚で辞職、柿沢未途氏もそれを指示したこと、区議にお金をばらまいた事で副大臣を辞職、自民党も離党し東京地検の家宅捜索を受けている。区議へのお金は自民から出馬した5人に20万円ずつ、選挙の指揮をして次点で敗れた元区議に20万円の「顧問料」をはらった疑いで事情聴取された(12月17日毎日)。全員一致で山崎一輝氏を推薦したはずの自民区議の少なくとも5人が寝返っていたのだ。
2、2回目(2023年12月10日)の江東区長選挙の結果
大久保朋果【当選】(自、公、国、都ファ) 57,029票 (元都部長、小池の秘書課長)
酒井菜摘 (立、共、れ、社、ネ) 34,292票 (元立憲区議)
三戸安弥 (自由を守る会) 30,132票 (元区議)
猪野 隆 28,819票 (元国税庁職員)
小暮裕之 (維新) 12,649票 (有明クリニック理事長)
2回目の12月10日の区長選挙では自、公、国、都ファ推薦の大久保朋果氏の圧勝のように見えるが都議選の自、公、都ファの合計115,541票の半分、49.36%しか獲得していない。また2020年7月の都知事選挙で小池百合子氏が江東区で獲得した140,185票の40,6%しか得票していない。投票率が1回目から9.66%も下がったこともあるが再選挙の原因となった自民党の選挙違反への批判の表れではないか。自民党内も4月の区長選挙で何人もの区議が寝返っていたことが発覚し選挙どころではなかったであろう。立憲区議だった酒井菜摘氏は都議選の立憲、共産の合計48,273票の71.0%しかまとめられなかったが4月の区長選挙で共産、社民推薦の芦沢礼子氏の25,167票を9,125票上乗せしている。不正選挙への批判票が三戸安弥氏(区議選で最高得票)、猪野隆氏(1回目区長選挙で34,126票獲得)に流れてしまったのではないか。自公都ファ対市民派の対立の構図がはっきりしなかったのが直接の敗因と思われる。
3、2023年4月の区議会議員選挙にみる江東区と目黒区との違い
江東区は自公をあわせた票が目黒区よりも7.8%も多く保守地盤が固い。れいわは立候補せず、都民ファーストの会も目黒の3分の1の1.6%しか得票していない。新しもの好きの目黒区、古い体質の江東区という政治状況が見て取れるのではないか。
江東区議会は自民15+公明9=24で自公のみで定数44(現在42)の過半数となる。目黒区議会は自民10+公明5=15では定数36の過半数に及ばない。江東区では反自公の区長が誕生しても議会運営が大変ということも区長選挙に影響したのではないか。
4、来年7月の都知事選挙や2025年都議選に向けた小池戦略
舛添要一知事が公用車私的使用問題などで辞職して行なわれた都知事選挙(2016年7月)では小池百合子は2,912,628票(44.49%)を獲得して初当選した。自民党都連は無断で立候補した小池氏を推薦せず増田寛也氏を推薦した。公明党も増田寛也氏を支援。増田寛也氏は1,793,453票で第2位。第3位は鳥越俊太郎氏で1,346,103票であった。2回目(2020年7月)では自民党都連は独自候補を断念(二階幹事長は小池氏を支持)、公明党は小池を支持した。その結果小池氏は票を伸ばし3,663,371票(59.7%)で圧勝した。一方知事選の1年後に行われる都議選では2017年、都民ファーストの会は50人中49人が当選して第1党になった。自民党は57議席から23議席に後退し公明党と同数の第2党となった。しかし自民公明が事実上小池与党となった後の2021年都議選では都民ファーストの会は31人に減少し33人の自民党に次ぐ第2党となった。
次回都知事選(2024年7月)は東京オリンピック疑惑や神宮外苑再開発など小池知事への逆風が吹く中で江東区長選挙に小池が動いた。自民党政調会長で自民党東京都連会長の萩生田光一氏に小池知事の秘書課長を務め都の部長職にあった大久保朋果氏の推薦を依頼したのだ。渡りに船の自民党は推薦を決め、前回自主投票だった公明党も推薦を決めた。かつてはありえない自民党と都民ファーストの会の連携は江東区長選挙に勝利することで来年の都知事選挙での3選や再来年の都議選で退潮傾向にある都民ファーストの会の再浮上に向けた一手であろう。小池氏の国政進出の布石の可能性もある。
都議会公明党は2017年の都議選から小池知事と協議し、都民ファーストの会との選挙協力を行っている。国政では自民党と連立しているが理念よりも実利優先の公明党にとっては矛盾でも何でもない。2023年4月の江東区長選挙で木村弥生氏が勝利した時も公明党は自主投票といいながら木村氏に投票したのではないか。そうでなければ票の出方の説明ができないし木村氏の提案に自民党が反対しても公明党は全部賛成している。2023年12月の江東区長選挙でも内部矛盾と自民派閥のパーティー券問題などで動けない自民党に対し公明党は大久保朋果氏支持で奮闘した。都民ファーストの会との連携は都における自公の選挙協力のごたごたや自民党退潮のなかで自民に代わる連立相手を模索している公明党の思惑ではないか。
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